昔の話である
松本邸には黒猫がすでに住み着いていた
それを知らずに数日が過ぎた
松本邸に越してきたのは何度目の引越しだっただろう
もう4年も前のことだ
松本邸は島でも1・2番目に作られたコンクリート住宅だ
当時はモダンな建物だっただろう
それが数年空き家になっていたため傷みがひどかった
壁や天井のあちらこちらでコンクリートが剥がれ落ちている
そこからボロボロになった鉄筋と
島では見かけない4・5センチの玉砂利がむき出しになっていた
座間味島から西へ2・3キロ先に屋嘉比島という無人島がある
戦前は銅山があり、2000余りの人が住んでいた
病院や学校もあり村で唯一電気の点く地域だった
終戦とともに銅山は閉鎖され、人は去り無人島になった
むき出しになった玉砂利を見て
島の石ではないですねと私が尋ねると
これは屋嘉比島から取って来たものだと
80を少し超えた上品な家主のオバァちゃんが答えた
古い家の周りを一緒に回りながら
この広い屋敷の管理が年寄りには辛くなってきたと
上品な家主は話し始めた
昔は島で進学する女性は少なかったと女学校時代の話になり
そして、うちの父とは島で同級生であること
あなたの父は苦学して師範学校を卒業して
戦争で中国に行ったと
帰還の途中で内地嫁を連れてきたのだ
昔から内地嫁がいる島だと長い話になった
たしかにこの島は本土出身の嫁が多い
妙に納得して会話が終わった
引越す前に少々の補修が必要だった
家を探すときは補修作業が必要な家を選ぶので仕方がない
仕事の合間の作業はゆっくりと進めるしかない
風呂場はわりと近代的なタイルの貼られた造りだった
そこの天井が30センチほど大きな音をたてて落ちてきた
仕方なく柱を立て内天井を張り1ヶ月ほどを掛けて住める状態にした
松本邸の周りには猫の多い場所だった
黒猫など気にも留めなかった
写真は松本邸ではない
琉球民家の面影を残す屋敷だ
フクギの木の防風林、ハイビスカスの生垣、裏には竹とバナナやパパイヤの木が生え
ブタ小屋に隣接したトイレのある
2~300坪の敷地にある赤瓦の家です
家の前にある素焼きの壷など
憧れの空間である
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